DSC04377

基地内のLGBT団体とメールでやりとりをして、やっとそのうちのひとりの男性と会えることになった。北谷、国道58号線沿いのスターバックスで待ち合わせ相手が来るのを待っていた。約束の時間から少し遅れて、ちぐはぐなカウボーイルックに身を包んだアメリカ人が現れた。ハロウィーンの季節だった。挨拶をして、ウッディです、と彼が言って笑う。トイストーリーの仮装だけれど、細身の彼だとどこかちぐはぐで、カウボーイハットは彼の小さな頭には大きすぎるように見える。何より、バンダナが紫色なのはなぜだろう。

彼も、そのドラッグショーに出演したひとりだけれど、兵士ではなく職員として基地で働いているという。兵士の方がよかったな、と思いながら、彼に作っている映像作品『花の名前』の説明をする。ギリシャ神話から続く負の循環を沖縄の状況に連ね、そしてその循環を超越できるような関係性を映像作品として描いてみたい、と。基地勤務の彼にそんなこというのは少しリスキーだなと考えながら、正直に話してみた。美しいね、美しい、と彼が反応する。アートのためなら、なんだってしたいと思ってるよ。基地の中でのイベントに関することだったので、ここまで交渉に何ヶ月もかかっていた。彼が乗り気になってくれているのは嬉しい。その様子に安心して、本題である、ドラッグクイーンとして「クロリスに」をリップシンクで歌ってほしい、という要件を伝えた。

彼は頷き、そして言った。いいね。じつは僕はいま、なんというか、気分障害を抱えてて。医者にかかっている。それもあってサンフランシスコに転勤を希望してたんだ。そしたら、急に来月に転勤が決まった。だから申し訳ないけど、時期的に僕は手伝えないかな。でも、仲間にいい人がいるから、紹介するよ。彼はこれまでもずっとドラッグクイーンとしての活動を続けてきたし、自分ひとりで化粧もできるし。そう言いながら、その仲間にメッセージを送った。返事がきたら、また連絡する。預かった資料も、みんなでちゃんと見るから。そう言って、彼は去っていった。10月。展示は12月に始まる予定で、もう時間がなくなってきていた。やはりアメリカは遠いな、と58号線を挟んで反対側のフェンスを眺めていた。




+++
(C) 2012-2015 Futoshi Miyagi