『リリー・マルレーン』を聞いて、何となくベジャールの踊り『恋する兵士』を思い出した。YouTubeで検索するとジョルジュ・ドンの映像が出て来て、踊りの前に誰かが「滅びゆく者たちの最後の踊りだ」と叫び僕はどきりとする。恋する兵士は何時だって美しくて、それは彼が滅びゆくからにほかならないという悲しさ。ドンがどれだけ陽気に踊っても、この兵士は死んでしまうのだろう。リリー・マルレーンに恋する兵士のように。この曲も、第一次世界大戦の兵士の初恋(そして最後の恋)相手を思う気持ちをうたったものらしい。
恋する兵士に感情移入してしまうことは危ういことで、兵士の周りではやし立てる人間たちの残酷さも知っている。それでも踊るドンは美しい。子供のように喜びと悲しみを爆発させる男。中学3年の頃バスケ部の練習が終わった中庭、友人がもってきたCDに合わせて上半身裸でわけのわからないダンスを踊るY。何事かと野球部の男子たちも覗きにくる。顧問の先生は陽気だねぇと笑っていて、女子たちはだれも相手にしていなくて、薄やみのどこかで小さな虫が鳴いていた。男子たちが何人か加わり、輪になってオーオーオーとはやし立てる。僕は部室のドアにもたれてその光景に見とれていた。全員入部制の学校には野球部とバスケ部しかなくて、嫌々バスケ部に入っていた僕は練習が終わる度にこの上ない開放感を覚えた。疲れた体から汗が乾いて体が少し軽くなり、うっとりと自由を味わう。でも、3年になってもうすぐ部活も終わる。Yを目にする時間も減ってしまうのだろう。Yが僕のところにやって来て踊ろうぜ踊ろうぜと手をひいた。僕は驚いていやだと笑ってその手を払った。Yは照れてると言ったあとラララララと両手を広げて中庭の中心へと戻っていった。夜が急速に近づき一幕の終わりのように帳をおろした。



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