DSC02696

「クロリスに」の歌い手は誰なのだろうか。例えばそれがゼピュルスであるならば、とても残酷な物語になってしまう。女性間の感情を歌に託したのだろうか。アーンのセクシュアリティを考えると、それも間違いではない気がするけれど、残酷なことに変わりはない。歌い手が恋したクロリスはゼピュルスにレイプされ、花の女神として生きることになるのだから。クロリス/フローラにまつわるこの曲を、沖縄の風景に重ねてみたい。そして、沖縄の誰かに歌ってもらいたい。そんな風に思い始めた。でも、誰に?例えばアメリカ人が歌えば、そのアメリカ人はゼピュルスになってしまわないか。沖縄人女性が歌うのは、あまりにも残酷すぎる。

そんなことを考えていた頃、ネットであるニュースを目にした。沖縄の米軍基地内のLGBT団体が、数年前からドラッグショーを基地内で開催しているという。アメリカ本土や他の地域の基地でも行われていない試みらしい。それを聞いて、当たり前のことに思い当たる。僕が境界として設定していたフェンスの向こうにもまた、境界は存在し、それを乗り越えようとしているひとびとが存在するのだと。そこには、僕がいままで見ようとしてこなかったひとびとがいる。

たとえば米兵のドラッグクイーンに、「クロリスに」を歌ってもらったらどうだろうか。僕は考えた。そうすれば、クロリスをめぐる暴力の物語に、あらたな観点を導入できるはず。何度も文言を書きかえてやっとメールをさう制して、、僕は沖縄の米軍基地内のLGBT団体に送信した。米軍の組織にコンタクトをとるなんて、初めての経験だった。どこの誰かもわからない作家からのメールなんて、無視されるかもしれない。それでも、可能性を探りたかった。




+++
(C) 2012-2015 Futoshi Miyagi